特許 令和5年(行ケ)第10011号「携帯端末の遠隔操作用デバイス」(知的財産高等裁判所 令和5年12月5日)
【事件概要】
進歩性を否定した拒絶査定不服審判の審決が維持された事例。
【主な争点】
相違点2(本願発明1の「表示部」は、「携帯端末に表示されている映像」を取得して表示する際に、「カメラにより撮影された映像を除く」と特定されているのに対して、引用発明の「表示部」は、「携帯端末に表示されている映像」をカメラにより撮影して取得して表示している点。)についての判断誤りの有無
【結論】
原告は、相違点2に関し、引用発明において端末表示部の表示画面の「撮像」は必須の構成であり、これを置き換える動機がないと主張する。
しかし、引用文献1(甲1)の記載上、引用発明において「撮像」、すなわちカメラで映像を撮影することが必須の構成であることを示唆する記載は見当たらない。
また、本件審決が引用する引用文献2(甲2)及び被告が本件訴訟において追加した周知例(乙1、2)によれば、本願の優先日当時、無線通信を用いてスマートフォンなどの携帯端末の画面に表示された画像を別の装置の画面に表示する技術であるmiracastは、android4.2の標準規格としてスマートフォンにおいて広く用いられている技術であり、スマートフォンの画面をmiracastで車載モニタやカーナビゲーション装置の画面に出力することも、普通に行われていたことが認められる。そして、引用発明における「撮像部252」の意義は、「撮像部252が撮像した携帯端末110の表示画面をそのまま装置表示部258に表示することで、ユーザに携帯端末110の表示画面をそのまま認識させることができる。」(甲1【0081】)ことであり、「携帯端末110の表示画面をそのまま装置表示部258に表示する」機能、すなわち「ユーザに携帯端末110の表示画面をそのまま認識させる」作用という点では、「撮像部252」とmiracast等の上記技術は共通するものといえる。
そうすると、引用発明において「撮像部252」に代えてmiracast等の周知技術を用いることで、「携帯端末に表示されている映像(カメラにより撮影された映像を除く)を表示する表示部(22)」を備えた構成とすること、すなわち、相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるといえる。
【コメント】
原告(出願人)は、引用文献1(甲1)を主引用例とする拒絶理由通知を受けて、「携帯端末に表示されている映像を表示する表示部」という発明特定事項を「携帯端末に表示されている映像(カメラにより撮影された映像を除く)を表示する表示部という発明特定事項に修正する補正を行った。これは、引用文献1において、「端末表示部の表示画面を撮像して画面データを生成する撮像部」が特許請求の範囲の独立請求項にも要件として記載されていることから、当該撮像部は引用発明においては必須の構成であると考えたためと推察される。しかし本判決では、引用発明における「撮像部252」の意義が考慮され、「引用発明において端末表示部の表示画面の「撮像」は必須の構成である」旨の原告の主張は斥けられた。引用発明の認定が、引用文献としての特許公報における特許請求の範囲の記載には囚われないことを示す事例の一つと解される。